山口地方裁判所 昭和43年(行ウ)2号 判決
宇部市錦町六番一七号
原告
村田厳三郎
右訴訟代理人弁護士
飯田信一
同市常盤町一丁目八番二二号
被告
宇部税務署長
藤原隆明
右指定代理人
平山勝信
右同
竹下茂
右同
広光喜九蔵
右同
小瀬稔
主文
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当時者の求めた裁判
(原告)
一、被告が原告に対して昭和四一年八月三〇日付でなした
(一) 昭和三九年分所得税の課税所得金額及び所得税額の更正処分並びに過少申告加算税(以下加算税という。)の賦課処分のうち、課税所得金額につき金八、〇〇一、一三〇円、所得税額につき金三、一四二、八〇〇円、加算税につき金一二五、七一〇円を超える部分、
(二) 昭和四〇年分所得税の課税所得金額及び所得税額の更正処分並びに加算税の賦課処分のうち、課税所得金額につき金一八、四九〇、九〇〇円、所得税額につき金八、八〇六、四〇〇円、加算税につき金四〇八、八六〇円を超える部分、
を取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
(被告)
一、原告の請求をいずれも棄却する。
二、訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(原告の請求原因)
一、原告は昭和四一年八月三〇日付で被告から昭和三九年分所得税につき、課税所得金額を金一三、一九一、八〇〇円、所得税額を金五、八九七、四九〇円とする更正処分、加算税を金二六三、四〇〇円とする賦課処分、昭和四〇年分所得税につき、課税所得金額を金二六、六三九、八〇〇円、所得税額を金一三、六二五、八八〇円とする更正処分、加算税を金六三六、〇五〇円とする賦課処分を受けたので異議の申立をしたが、棄却されたので、更に審査請求の申立をしたところ、原処分の各一部を取消し、昭和三九年分所得税につき、課税所得金額を金一二、四四六、〇〇〇円、所得税額を金五、四八七、三〇〇円、加算税を金二四二、九〇〇円、昭和四〇年分所得税につき、課税所得金額を金二六、〇六五、〇〇〇円、所得税額を金一三、二八一、〇〇〇円、加算税を金六一八、八〇〇円、とする裁決があり、原告は昭和四二年一〇月二六日その通知を受けた。
二、しかしながら、原告の昭和三九年分所得税の課税所得金額は金八、〇〇一、一三〇円、所得税額は金三、一四二、八〇〇円、加算税は金一二五、七一〇円であり、昭和四〇年分所得税の課税所得金額は金一八、四九〇、九〇〇円、所得税額は金八、八〇六、四〇〇円、加算税は金四〇八、八六〇円なので被告の前記各更正、賦課処分のうち、右を超える部分は違法であるから、その取消を求める。
(請求原因に対する被告の答弁及び主張)
一、請求原因第一項は認めるが、第二項は争う。
二、被告は原告の昭和三九年分及び昭和四〇年分のパチンコ営業による各事業所得を調査したところ、原告は右営業の収入、支出関係の資料として領収書等の断片的資料を保存しているのみで、日々の収入、支出関係を記録した帳簿等を備えていなかったので、実額所得を把握することができなかったため、資産負債増減計算により右両年度の各事業所得を推計したが、右推計によれば少くとも昭和三九年分の事業所得は金一二、五八八、二六六円あり、昭和四〇年分の事業所得は金二〇、一二三、〇二七円あることが認められた。
被告のなした資産負債増減計算関係は昭和三九年分については別紙(一)記載のとおりであり、昭和四〇年分については別紙(二)記載のとおりである。
なお別紙(二)の資産の部のうち、有価証券の期末金額中には長門興業株式会社(以下長門興業という。)の株式取得価額金二、一七八、八〇〇円(一株当りの価額金一五〇円)が含まれている。また減価償却費中にはパチンコ機械の償却費金一、七二六、六五〇円が含まれているが、その計算関係は別紙(三)記載のとおりである。
三、ところで、原告には事業所得の外に他の所得もあるので、それと事業所得を合計した総所得につき(一)課税所得金額、(二)所得税額(三)加算税を算出すると、昭和三九年分について(一)は金一二、四四六、〇〇〇円、(二)は金五、四八七、三〇〇円、(三)は金二四二、九〇〇円であり、昭和四〇年分について(一)は金二六、〇六五、〇〇〇円、(二)は金一三、二八一、〇〇〇円、(三)は金六一八、八〇〇円であって、その計算関係は別紙(四)記載のとおりである。
(被告主張に対する原告の答弁及び主張)
一、昭和三九年分の資産負債増減計算関係即ち別紙(一)記載のうち、資産の部中定期預金関係を除くその余の部分、負債の部、加算金額の部はいずれも認めるが、定期預金の増加額及び減算金額の部の各認定を争う。
即ち定期預金の期末金額は認めるが、期首金額は被告主張額より金三、五〇〇、〇〇〇円多額であるから、定期預金の増加額は被告主張額より金三、五〇〇、〇〇〇円少い。けだし原告は昭和三八年五月二二日から同年一二月九日までの間に、福岡相互銀行(以下福岡相互という。)宇部支店に隅田三郎名義で合計金三、五〇〇、〇〇〇円を積立預金していたところ、同銀行が昭和三九年中に右預金を右支店の原告名義の定期預金に振替えているので、期首に金三、五〇〇、〇〇〇円の定期預金があったことになるからである。
また、減算金額の部は被告主張の科目、金額は認めるが、なお山中芳子に帰属する事業所得、金九四四、八七〇円がある。即ちタイガーパチンコ店の純益はすべて山口銀行に原告名義で預金しているところ、右店舗は山中との共同経営であり、原告は山中に対し昭和三九年中に金九四四、八七〇円の純益を分与しているので、減算金額の部に山中の事業所得、金九四四、八七〇円が計上されなければならない。
二、昭和四〇年分の資産負債増減計算関係即ち別紙(二)記載のうち、資産の部中有価証券関係と減価償却費関係を除くその余の部分、負債の部、加算金額の部、専従者控除額はいずれも認めるが、有価証券の増加額、減価償却金額、減算金額の部の各認定を争う。即ち有価証券の期首金額は認めるが、期末金額は長門興業の株式取得価額金二、一八〇、〇〇〇円(被告主張額は誤りで原告主張の上記金額が正当な額である。)を控除した金額が正当である。けだし原告は昭和四〇年中に金二、一八〇、〇〇〇円を支出して長門興業の株式を取得したが、右会社の経営は昭和四〇年末当時、赤字であったから、右株式は無価値に等しいものであつて、右取得価額に相当する価値はなかつたからである。仮りにそうでないとしても原告が右株式を取得した目的は右会社が映画興業を廃止して所有の映画館をパチンコ業者に売却しようとしていたので、株主総会において右廃止決議の成立することを阻止して競争業者の進出を防止するためであつたから、右株式取得代金は原告のパチンコ営業収入を減少させないために支出した営業経費であるからである。
次に減価償却金額のうち、パチンコ機械の償却金額金一、七二六、六五〇円を除くその余の償却金額は認めるが、パチンコ機械について被告のなした右償却金額の認定は誤つている。即ち原告は昭年四〇年中に別紙(三)記載のとおり金六、四二〇、〇〇〇円を支出してパチンコ機械を取得したが、原告は営業政策の見地から年二回パチンコ機械を取替しているため、右パチンコ機械全部も昭和四〇年末当時、既に取替しているから、右取得価額全額につき減価償却がなされなければならないところ、原告は昭和四〇年中に右パチンコ機械全部を金三一三、四六〇円で売却したので右売却代金を控除した残額金六、一〇六、五四〇円がパチンコ機械の正当な償却額である。
次に減算金額の部は被告主張の科目、金額は認めるが、なお山中芳子に帰属する事業所得、金一、〇一四、二一〇円があり、その理由は昭和三九年分について述べたのと同様である。
三、昭和三九年分及び昭和四〇年分の各課税所得金額、所得税額及び加算税の算出計算関係、即ち別紙(四)記載のうち、所得の部中右各年分の事業所得の金額を除くその余の部分、所得控除の部、税額控除の部はいずれも認めるが、事業所得の金額は争う。
原告の正当な事業所得の金額は前記の理由から共同経営者の山中に分与した金額を控除した昭和三九年分は被告主張額より金九四四、八七〇円、また昭和四〇年分は被告主張額より金一、〇一四、二一〇円、それぞれ少い金額である。
(原告主張に対する被告の反論)
一、隅田三郎名義の積立預金が原告のものであることは否認する。
二、被告が有価証券の期末金額のうちに長門興業の株式の取得価額を含めたのは、右株式に価値があるからではなく、その取得代金が原告の営むパチンコ営業の収入金の中から支出されているという意味で、右取得代金自体は生活費と同様、当時右代金に相当する事業収入のあつたことを示すものなので、資産負債増減計算により所得を推計した本件の場合、右株式の取得価格自体を期末金額のうちに含めたのであり、また所得税法上、有価証券の価値が保有中にその取得価額以下になつたとしてもその評価損失を必要経費として認めることはできないのであり、更に所得税法上の必要経費は事業収入を得るために直接要した費用であるから、原告の主張するような事由による支出では必要経費にあたらないのである。
三、被告はパチンコ機械が当時の所得税法施行令第一三八条第一号の「業務の性質上基本的に重要な減価償却資産」にあたるので、法令の定めるところに従い別紙(三)記載のとおり減価償却を行ったのである。
四、タイガーパチンコ店が山中芳子との共同経営であることは否認する。
第三、証拠
(原告)
甲第一の一、二、第二の一、二、第三ないし第一一号証を提出し、証人福原寿一、同山中芳子、同花田正利、同松元昭宗の各証言、原告本人尋問の結果、福岡相互銀行宇部支店に対する調査嘱託の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。
(被告)
乙第一ないし第八号証を提出し、証人松井武、同河村弘の各証言を援用し、甲各号証の成立を認めた。
理由
一、請求原因第一項の事実は当事者間に争いがなく、原告がその営むパチンコ営業にかかる昭和三九年分及び昭和四〇年分の収入、支出関係の資料として領収書等の断片的資料を保存しているのみで、日々の収入、支出関係を記録した帳簿等を備えていなかった旨の被告主張事実は原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなすべきところ、右によれば右両年分の適正な各事業所得を実額計算により算定できないと認められるから、被告が資産負債増減計算により右各所得を推計したことは相当であるところ、原告は被告のなした事実所得の金額の認定が過大であり、従って課税所得金額、所得税額、加算税の認定が過大であると争うので、以下右認定の当否について順次検討する。
二、昭和三九年分事業所得の金額の認定の当否について
(一) 昭和三九年分の資産負債増減計算関係即ち別紙(一)記載のうち、資産の部中定期預金関係を除くその余の部分、負債の部、加算金額の部はいずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで進んで当事者間の争点について検討する。
(1) 定期預金の増加額について
原告は定期預金の増加額が被告主張額より金三、五〇〇、〇〇〇円少い旨、即ち原告は昭和三八年中に隅田三郎名義で福岡相互宇部支店に金三、五〇〇、〇〇〇円を積立預金していたところ、右預金は昭和三九年中に右支店の原告名義の定期預金に振替っているから、期首に右金額の定期預金があったことになる旨主張するので考えてみるに、当裁判所の福岡相互銀行宇部支店に対する調査嘱託の結果、証人花田正利の証言、原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告が右支店に隅田三郎名義で昭和三八年五月二二日から同一二月九日までに合計金三、五〇〇、〇〇〇円を積立預金したこと、そして右預金は原告が昭和三九年一月から同年四月までに右支店に積立預金した合計金二、五〇〇、〇〇〇円と合わせて同年五月二二日に引出されたことが認められるところ(この認定を左右するに足りる証拠はない。)、前示証言及び原告本人尋問の結果を綜合すれば、引出された右六、〇〇〇、〇〇〇円の金員につき、原告又は右銀行においてその後如何なる処置をとったのか不明であるから(この認定を左右する証拠はない。)、昭和三八年中に積立預金された前記金三、五〇〇、〇〇〇円の金員が昭和三九年中に右支店の原告名義の定期預金となったものと認められないので、原告の主張は理由がないから被告の認定は相当である。
(2) 山中芳子に帰属する事業所得の有無について
成立に争いのない乙第四号証、証人松井武、同河村弘、同山中芳子の各証言、原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告が山中とタイガーパチンコ店を共同経営しているものと認められないから右店舗の純益はすべて原告の事業所得に帰属するものといわなければならないので、仮りに原告が右店舗の純益のうちからその主張の金員を山中に分与したとしても、右分与にかかる金員が山中の事業所得になるものではないから、原告の主張は理由がなく、被告の認定は相当である。
三、昭和四〇年分事業所得の金額の認定の当否について
(一) 昭和四〇年分の資産負債増減計算関係即ち別紙(二)記載のうち、資産の部中有価証券関係と減価償却費関係を除くその余の部分負債の部、加算金額の部はいずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで進んで当事者間の争点について検討する。
(1) 有価証券の増加額について
原告は有価証券の増加額が被告主張額より金二、一八〇、〇〇〇円少い旨、即ち原告は昭和四〇年中に金二、一八〇、〇〇〇円を支出して長門興業の株式を取得したが、同年末当時、右会社の経営は赤字であつたから、右株式の価値は無価値に等しいものであった旨主張するので考えてみるに、仮りに右株式が無価値に等しいものであつたとしても、右株式の取得代金自体はその支出当時、右代金に相当するパチンコ営業収入があつたことを示す徴憑であるから、資産負債増減計算によりパチンコ営業収入を推計した本件の場合、右取得代金に相当する取得価格自体を右計算において資産として計上することは正当であり、また仮りに原告主張のような事由により右株式の取得がなされたものであるとしても、右のような事由による株式取得代金は所得税法上の必要経費にあたらないから(なお保有株式の価値が保有中に取得価額以下になつたとしても、その評価損失は所得税法上の必要経費に、あたらない。)原告の主張はすべて理由がなく、被告の認定は相当である。
(2) パチンコ機械の減価償却金額について
原告は被告のパチンコ機械償却金額の認定が誤りである旨、即ち原告は営業政策の見地から年二回パチンコ機械を取替えているため、昭和四〇年中に取得したパチンコ機械全部も同年末当時取替えているから、右取得価額金六、四二〇、〇〇〇円から売却代金三一三、四六〇円を控除した残額六、一〇六、五四〇円全額の減価償却がなされなければならない旨主張するので考えてみるに、当時の減価償却資産の耐用年数等に関する省令(大蔵省令)の別表第一の9によるとパチンコ機械の耐用年数は二年と法定されているので、仮りに原告が営業政策の見地から昭和四〇年中に取得したパチンコ機械全部を同年末当時取替えていたとしても、そのような個々の事情によつて恣意的に税法上一定の基準のもとに画一的に定められている耐用年数を短縮して減価償却をすることはできないから、原告の主張は理由がなく、被告の認定は相当である。(なお固定資産の保有中の評価損失は所得税法上の必要経費にあたらない。)
(3) 山中芳子に帰属する事業所得の有無について
前示のとおり、この点に関する原告の主張には理由がないから、被告の認定は相当である。
四、昭和三九年分及び昭和四〇年分の各課税所得金額、所得税額及び加算税の算出計算関係即ち別紙(四)記載のうち、所得の部中右各年分の事業所得の金額を除くその余の部分、所得控除の部、税額控除の部、専従者控除額(昭和四〇年分について)はいずれも当事者間に争いがなく、右両年分の各事業所得の金額についての被告の認定は前記のとおりいずれも相当であるから、結局被告のなした右両年分の各課税所得金額、所得税額及び加算税の認定はいずれも相当なので、本件更正処分及び賦課処分は適法であるから、原告の本訴請求は理由がなく棄却を免れない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 荻田健治郎 裁判官 小川喜久夫 裁判官 三島昱夫)
別紙(一) 資産負債増減計算(昭和39年分)
〈省略〉
註 △はマイナスを示す。
差引増減額(A-B) 8,935,232………C
(加算金額)
生活費(家事関連費を含む) 3,617,270
雑所得(損失) 546,123
譲渡損失 215,695
小計 4,379,088………D
(減算金額)
受取利息 306,054
給与 420,000
小計 726,054………E
差引所得金額(C+D-E) 12,588,266
別紙(二) 資産負債増減計算(昭和40年分)
〈省略〉
註 △はマイナスを示す。
〈省略〉
差引増減額(A-B) 22,832,071………C
(加算金額)
生活費(家事関連費を含む) 4,473,167
譲渡損失 74,935
小計 4,548,102………D
(減算金額)
受取利息 610,916
給与 420,000
雑所得 6,113,730
小計 7,144,646………E
差引所得金額(C+D-E) 20,235,527………F
(専従者控除額) 112,500………G
専従者控除額控除後の所得金額(F-G) 20,123,027
別紙(三)
パチンコ機械の取得価額および減価償却費計算表
〈省略〉
(注) 減価償却の方法は定額法によつて計算している。
別紙(四)
課税標準等および税額計算書
〈省略〉
註 △はマイナスを示す。
〈省略〉